少年院の中の子ども達
今まで数えきれないくらいの子ども達と会ってきた。
私の面接に一言も発せず、反抗した少年がいた。彼は最初の少年院で統合失調症の真似をして医療少年院に送られた少年であった。手強いという感じであったが、面接の最後にもう一回面接をしてくれたら全部話すと言ってくれた。この少年の言葉どおり、2回目の面接を行った。その時は人が変わったようにすべて話してくれた。
その少年は母子家庭で母一人、子一人の家庭であった。母は彼の養育に手こずり、保護司の調査では引き受けるのを渋った。1週間くらいなら家に居させてやるというような話だった。
保護観察所は母の引受意思が消極的であったことから母のもとへ帰すことに反対した。
私は母と子、絆を切ることはできない。母親が少しでも帰住を了解してくれているなら母親のもとに帰そうと半ば強引に母親のもとに帰すことにした。
少年は仮退院となって母親のもとに帰っていったが、それから保護観察は終了したが、その後、何日か経ったある日、新聞に彼が寝ている母親の頸を絞めて殺害したという記事が載っていると保護観察所の保護観察官が教えてくれた。
彼がどういう気持ちから母親を殺害したかは全く推測がつかなかった。母親に対する恨みの感情は持っていなかったことだけは確かだ。
私が彼を母親のもとに戻さなければ、母親も死ぬことはなかったかもしれない。
そう思うと私の心にずしりと重い鉛を飲み込んだような気分になった。
事件が報道されてから、地方検察庁の検事さんから少年が黙秘をつらぬき、調べができないため、参考に私の書いた調査書を送ってほしいという依頼がきた。
彼がどういう気持ちで取り調べを受けているのか、これの心の内を知りたい気もした。
その後、彼には懲役刑が課されたと思う。刑期についてはよく覚えていない。
地方更生保護委員会の仕事は仮釈放の審査をする仕事であるが、人の生死にかかわるような重責でもある。
仮釈放した者が重大再犯を起こし、人を殺傷するかもしれない。それが起きないように再犯のおそれがないかどうかについて慎重に調査が行われる。ただ、その人を見ているのはただの人間である。調査にも限界がある。
少年院の場合は、少年法の精神に基づいて矯正教育の観点から子ども達を見るため、再非行のおそれがないかどうかという点は軽視はされないが、少年院教育の成果のほうが重視される傾向にあると思う。
冒頭の彼は少年院教育で問題となる点はあまりなかった。統合失調症の症状を真似てはいたが、精神病ではなかったと思う。
私は医療少年院を関東、京都、宮川と3か所担当したので、医療少年院であった子達について書いていきたいと思う。
